こんにちは!
実は、今まで一度も石原慎太郎さんの著書を読んだことがなかった自分。
先日初めて彼の著書を読んだのですが、それが遺作となった「『私』という男の生涯」
僕にとって、石原さんは作家というよりも政治家、特に東京都知事としての印象の方が強い。
そもそもこの本を読もうと思ったきっかけも、彼の都知事時代の動画をYouTubeで見たことでした。
気持ちが良いほどにハッキリと、毅然とした態度でモノを言う人。
他の政治家とは明らかに一線を画す、理路整然とした物言い。
そんな彼が「”自分と妻”の死後の出版を条件」に遺した自伝。
読み始めるとすぐに引き込まれてしまい、1週間ほどで一気に読み終えてしまいました。
「心身性を伴った作家」石原慎太郎
読み進めていく中でまず感じたのは、彼の持つ「心身性」というもの。
冒頭に書かれているヨットレースやダイビングの話など、特にその身体性と行動力にはとても惹きつけられました。
ちなみにこの「心身性」という言葉は、彼が芥川賞の選考委員辞任を表明した時
「自分の人生を反映したリアリティーがない」
「つまり、心身性、心と体、そういったものが感じられない」
と発言していて、彼のように自分の肉体を使ったリアルな経験を重ねて来た人物には、最近の作家が薄っぺらく感じてしまったのではないでしょうか。
「弟」石原裕次郎
昭和の大スターとして知られる、石原裕次郎。
この本には「弟」裕次郎についても、幾つかのエピソードが書かれています。
どうやら彼は兄の慎太郎よりもませており、運動神経抜群で女にもモテたよう。
さすがは「昭和の大スター」ですね。
そして、そんな弟の止めることの出来ぬ放蕩が
「皮肉な話、物書きになるきっかけになってしまったとも言える(本文より)」
という。
彼の出世作であり、芥川賞受賞作でもある「太陽の季節」は、弟の裕次郎が語った話が題材になっているし、兄は兄でその小説が映画化された時に弟を推薦して映画デビューさせている。
二人ともお互いの人生に大きな影響を与え合っていたんですね。
後年、著者は「弟」という本を書き、そこで弟への思いは書き尽くしたと言っています。
ミリオンセラーともなったこの本、是非また読んでみたいと思います。
ちなみに僕にも兄がいますが、兄弟仲は最悪でお互い全く口も聞きません ^^;
「発想力」政治家として
物書きとしてベトナム戦争に取材に出掛けたことがきっかけで、日本という国家の将来に強い危機感を抱いた著者。
それが政治家になる決心をした理由だという。
そして国会議員として25年という歳月を過ごすのですが、この本では繰り返しこの時期を「無為に過ごした」と振り返っています。
とは言えさすがに不毛なだけではなかったとも書いていて、特に運輸大臣として過ごした二度目の閣僚経験は色々と手応えもあったようで、
「大臣という仕事は発想力さえあれば面白いもので、役人を凌いでさまざまな変化を世の中にもたらすことが出来る(本文より)」
とも述べています。
彼の政治家としての真骨頂は正にこの「発想力」と、それを実際に行動に移す「実行力」にあったと僕は思います。
そしてこれらの能力を大いに発揮したのが、13年間に渡る都知事時代だったのではないでしょうか?
石原都政の主な政策
- 都の会計制度を単式簿記から複式簿記に切り替え、財政を再建
- ディーゼルエンジンの排気ガスの規制
- 羽田空港の国際化
- 都庁の渡り廊下の壁のスペースを「ワンダーウォール」と名付け、若い無名の芸術家たちの作品を募集し、審査後に壁に展示させた
- 国連大学の職員用ドミトリーを外国の画学生にあてがう「アーティスト・イン・レジデンス」
- 大道芸人を審査してライセンスを与え、歩行者天国などで芸を披露出来る制度を作る
- 東京マラソン
本人も「国会議員として過ごした年月に比べれば、はるかに充実した年月だった」と振り返っている通り、本当に数々の施策を実行した石原都政。
世の中にある様々な施設や技術、恵まれた環境も、「発想(アイデア)」が無ければ本当に宝の持ち腐れになってしまう。
やっぱり「発想力」はこれからも必須のスキルだと再確認する一方、この力を伸ばす教育や環境は本当に大事だなと思います。
老いと死
この本には、著者の迫り来る死への思いや葛藤、老いていく自分への苛立ちが全編を通して書かれています。
死についてのエピソードで特に印象に残ったのは、著者が中学時代に目撃した同級生の死。
当時の東海道線では満員の列車に窓から強引に這い込んだり、線路からよじ登って乗ったりが当たり前だったという。
そしてある時、超満員の列車の最後尾のデッキになんとか収まっていた著者のもとに、見知りの同級生が来たので引き上げてやる。
間もなく列車が動き出し、デッキのギリギリの端に立っている著者の前で、この友人がふざけて外に身を乗り出して見せる。
だが列車が線路のカーブに沿って大きく外側に傾いた時、いい気になって身を乗り出してみせていた彼の頭が線路すれすれに立てられていた鉄柱に激突。
「その瞬間、彼は声も立てずに私の目の前から宙に飛んで消え、振り返ると彼の体は空中を二転三転しながら線路の瓦礫に叩きつけられた。私はそれを固唾を呑みながらまじまじ見届けていた。そして線路に突っ伏したままの彼を残して列車は無情に走り去った。
あれは私が人生で初めて目にした人間に死をもたらす不条理なるものの姿だった。(本文より)」
人間、いつ死ぬかなんて誰にも分からないこと。
当たり前のように来ると思っている明日も、それはもちろん絶対ではない。
「死の先にあるのは虚無」
「だから死ぬのはつまらない」
そう言ってこの本を締め括った著者。
願い通り、最後の死の瞬間をしみじみ味わいながら死ねたのだろうか?
この本を読み終わって、これからは心のどこかに「終わり」を意識して生きて行こうと思いました。
そうすれば、毎日をもっと大切に過ごせると思うから。
「私」という男の生涯
オススメの本です!
是非皆さんも読んでみて下さい。
ではまた!
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